学習指導要領の改定に向けて先般パブリックコメントの受付がありました。既に〆切および各コメントへの対応が発表されています。
今回の改定の目玉の一つは小学校へのプログラミング教育と英語教育の導入と言われています。英語教育も重要なのですが、ここではプログラミング教育についての状況をチェックしたいと思います。突っ込みどころ満載。たぶん長くなります。ちなみに中学校は更に暗澹たる気持になれるのですが、一年先(と言ってもあまり時間がありませんが)なので今回は割愛します。
まずパブリックコメント公表時の文科省の発表資料がこちらです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2017/20170214.htm
プログラミング教育導入とは一言も書いてないんですね。
10年先の未来を見据えて「生きる力」を育む為のアクティブラーニングを導入します
とだけ書いてあります。好意的な見方をするとパブリックコメントに向けて、議論の焦点をあえて限定しすぎ無いための配慮と取れなくもないですが、これだけ大きな変更について全く言及しないというのも気になります。今回に限ったことでは無いのですが、プログラミング教育導入に向けた文科省と総務省の温度感は確実に違うと感じることが何度もあります。これは大幅な負担が増える教育現場への配慮のせいなのか、はたまたただの硬直化した組織のせいなのか。おそらくどんよりした「空気」が義務教育の硬直化を招いているんでしょうね。
ちなみにプログラミング教育に向けた各省庁の態度はだいたいこんな感じかと思います。
文科省 ・・・反対している研究者も多数いて、混乱するのでやりたくない。
総務省 ・・・地方分権で失いつつある中、プレゼンスを回復できそうなプログラミング教育には積極的
経済産業省・・・プログラミング教育導入の究極目標は産業育成なのでもっと関与して良いはずだけど、直近の経済への影響は不透明なので動かない。
超偏見に満ちてますけど、総務省頼みになってるのは当たってると思います。
さて、話を指導要領に戻します。
パブリックコメントの対象となった指導要領(案)はこちらから。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000878&Mode=0
まずは小学校の指導要領案をサラサラと確認。
プログラミングという単語の記述箇所の要約は下記の通り(詳細は上記サイトからPDFダウンロードして本文を検索してください)
以下超訳
第1章総則
とりあえずどこかの教科でプログラミングやってね
第2章第3節 算数
5年生の図形とかでプログラミングしてみたら
第2章第3節 理科
6年生の「物質・エネルギー」の勉強とかでプログラミングしてみたら
第5章 総合的な学習の時間
探求的な学習等で情報に関する学習をするときにプログラミングしてみたら
以上!・・・エッ?これだけ?
「私達アイデア無いので感知しません」っと言っているレベル。文科省が後ろ向きなのは気づいてましたが、これはひどいと思いました。
一応ですね、これまでに「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」なるものを税金かけてやってるわけですよ。
http://jouhouka.mext.go.jp/school/programming_syogaikoku/programming_syogaikoku.html
本文・付属資料合わせて340頁以上の膨大な資料。その結果、日本に適用できそうなことはこれだけってことなのか?プログラミング教育の必要性については元々政府の成長戦略として出てきている話です。未来に必要な能力を教育しましょうと。それがなぜこの教育のICT化に毛の生えたような内容になるのかまったく理解できません。
プログラミング教育義務化の経緯はざっと以下のとおりです。
首相官邸 平成25年産業競争力会議成長戦略(素案)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai11/siryou1-1.pdf
この会議で義務教育へのプログラミング教育導入が提言
総務省 平成27年プログラミング⼈材育成の在り⽅に関する調査研究
http://www.soumu.go.jp/main_content/000361429.pdf
プログラミング教育の定義や方法論について発表
首相官邸 平成28年第26回産業競争力会議(必修化発表)
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201604/19sangyo_kyosoryoku_kaigi.html
プログラミング教育義務化決定
これらの発表を受けて、日本国内でもコンテンツ開発が加速していきます。
さて、私の感覚ではこれまでの経緯とこの指導要領は全くリンクしてきません。指導要領はあくまで「要領」なのですが、それにしたって、これまでの経緯について考慮された形跡が全く感じられ無いってどういう事なんでしょうか。やっぱり文科省は「官邸から言われたので組込みました」感満載な温度感なんでしょうか。頭が痛い。
そして公表されたパブリックコメントの結果はこちらです。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000878&Mode=2
こちらの残念感は、1万以上のコメントが寄せられたなかでピックアップされたのはたったこれだけ?しかも適当に回答しやすいものばかり。ちなみに私もおおよそ上記の様な内容でコメントを出したのですが、それらしきものを見つける事はできませんでした。
1万以上のコメントを数週間でまとめるってことに無理はあるわけですが、そもそもの完成度が残念すぎるのも原因なんじゃ無いでしょうか。
さて、この指導要領にかんする今後の展開ですが、「ICT CONNECT 21」の方ですべてのコメントに目を通して役立てていこうとしているようです。少しは望みがもてるのかな。
https://ictconnect21.jp/jimukyoku_170419_001/
今後もしっかりとウォッチしていきたいと思います。
ICT CONNECT 21 の寺西と申します。このたびは言及していただいてありがとうございます。
答申も含め、パブリックコメントをすべて拝見しての感想ですが、ピックアップされている意見は「「代表的なもの」として提示するもの」として、的を得ていると個人的には感じています(私自身、「実際のところはどうなんだろう」を目で見て確かめるために見ましたので…)
1万件パブリックコメントがあったわけですが、7割は社会関係の用語に関するもの、2.5割は性教育、銃剣道、など、メディアでも報道されているような類のもの(とでもいいますか)、残りが別の話題、うち、「なるほど」(私の考えと同じか違うかと言う視点抜きにして)と思える意見は「……」くらいのものでした。
個人的には、教育と言う大きなものを、省庁、教委、学校に社会が任せすぎていると思っていまして、その思いがさらに強くなる今回の閲覧でした。
もっと一人ひとりが、教育観を持ち、実際に教育にコミットできるようにするにはどういう社会作りが必要なんだろう…?と、いつも考えています。
あくまで個人的な考えとして、コメントを残させていただきました。
寺西さま
コメントありがとうございます。パブコメのご確認お疲れさまです。コメントの母数が多いと読むだけでも膨大な労力が必要になるわけで、限られた時間とコストの中で有用なコメントを抽出する作業は大変な作業だと思っていました。特に教育は尖った主観をもった方の声が大きくなりがちなところもあるような気がするので、「代表的なもの」の抽出は慎重な配慮がなされているのだと思います。結局パブリックコメントの問題点は有用と認識されたものがどれで、その後の反映がどのようになされていくかが見えないところに問題があるのですが、それを官の方から直接出すと角が立つので、寺西様達のような第3者的な組織体で捌いていただいて、見える化していく方が良いと考え、寺西様達の動きについての言及もさせていただいたつもりです。よろしくお願いいたします。
教育についての市民の教育観を育成しなければならないのは同感です。私もその教育観を育てるには、それをぶつけると適度なレスポンスが帰ってくる「場」の提供が必要だと思うのですが、どうやって作れば良いのかと私もよく悩みます。教育のICT化は子供達よりも、現場と市民をつなぐ側に取り組むのが先なのでは?とも思ったり。少しづつでも良いので、解決していけると良いですね。